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2024/06/05

長期的に成長できるシステムを 3 つのアーキテクチャで実現、「ユニチカモデル」を Azure 上で具現化したマイクロサービス基盤

30 年以上にわたって使い続けてきた汎用ホストから 2017 年に脱却し、システム リフォームの「ユニチカモデル」を確立していたユニチカ株式会社。2018 年にはこのモデルをさらに前進させるため、クラウドでのマイクロサービス化にも着手しています。そのクラウド インフラとして採用されているのが Azure。成長し続けられるシステムを実現するため、Azure Kubernetes Service を中心としたマイクロサービス基盤と、その上で動作するマイクロサービスを構築するためのアプリケーション基盤、そしてマイクロサービス基盤そのものの自動構築などを担う DevOps 基盤が実装されています。既に 3 つのシステムをこのマイクロサービス基盤上に実装。機能追加が行いやすくなり、保守生産性も高くなっています。これからもこの基盤を活用し、マイクロサービス化を推進していく計画です。

UNITIKA

ホストからのオープン化で「ユニチカモデル」を確立、その後さらにマイクロサービス化へ

1889 年に尼崎紡績として創立し、1918 年以降は「大日本紡績」として日本の繊維産業を支え続け、さらに 1969 年の日本レイヨンとの合併で総合繊維会社となったユニチカ株式会社 (以下、ユニチカ)。現在では機能素材メーカーとして、高分子、機能資材、繊維などの事業を展開しています。「暮らしと技術を結ぶことによって社会に貢献する」という経営理念を掲げ、「安全で安心な暮らし」「便利で快適な暮らし」「環境と共生する暮らし」の実現を推進。2024 年 2 月に柔軟性と耐熱性を両立するポリアミド系フィルム「柔軟耐熱フィルム」をリリースするなど、新たな機能素材を次々と生み出し続けています。

情報化にもいち早く取り組んでおり、1980 年代には汎用ホストで基幹システムを構築。しかし 2021 年にその保守切れを迎えることから、2015 年にオープン化に向けた取り組みに着手しています。

当時の状況について「30 年以上にわたってホストを使い続けていましたが、これをさらに継続使用する場合には、数億円規模のバージョンアップ費用と、6 年にわたる作業期間が必要でした」と語るのは、このころに情報システム部長を務め、現在はユニチカ 情報システム部のシニアマネージャーである近藤 寿和 氏です。またランニング費用が高額であることや、古くてマイナーなホスト用言語の技術者確保が今後困難になると予想されたことも、バージョンアップの大きなハードルになっていたと振り返ります。「そこで、会計については ERP パッケージを導入すると共に、ERP でカバーしにくい業務は Java でリライトすることにしたのです」。

この際に「ユニチカにとっての理想モデル」を半年かけて検討し、独自の「システムリフォーム・ユニチカモデル (以下、ユニチカモデル)」を策定。既存のシステム リソースを生かしながら最新の IT 基盤へと引っ越す「システムリフォーム」の手法をベースに、「継続性」「保守性」「開発生産性」というコンセプトを実現するため、「疎結合」「標準技術の採用」「高信頼性」というアーキテクチャ原則を定めたのだと近藤 氏は説明します。

2017 年秋には、このユニチカモデルに基づく基幹システムである「Compass」をリリース。さらにその周辺システムも、2018 年春までにホストからの移行を完了しています。そしてこの直後から、さらに次の展開を見据えた取り組みをスタートするのです。

「2018 年 10 月に、ユニチカモデルをさらに前進させるため、クラウドに移行していこうという構想に着手しました。しかし目的はクラウド化自体ではなく、クラウド上でマイクロサービスの基盤を確立することです。このころの Compass はモノリシック構造でしたが、そのままでは開発スピードを高めることができず、特定の機能だけを更新/停止することもできないため、運用コストも高くなりがちでした。またアプリケーションが大きくなれば品質担保も難しくなり、リリース時間が長くなるという問題もあります。これらの問題を解決するにはマイクロサービス化が必要ですが、オンプレミスで実現するのでは初期費用がかかりすぎると判断したのです」 (近藤 氏)。

成長し続けるシステムのため、Azure 上に 3 つのアーキテクチャを実装

この構想を実現するため、まずは当時最も知られていたメガ クラウドのベンダーに話を持ちかけたと近藤 氏。しかしこのベンダーは、あまり乗り気ではなかったと振り返ります。これと並行して、Azure を提供するマイクロソフトにも相談。ここでは積極的かつ親身な対応が行われ、パートナーとして株式会社アークウェイ (以下、アークウェイ) が紹介されることになったと言います。

このような対応が評価され、2019 年 4 月には Azure 上でマイクロサービス基盤を構築することに決定。アークウェイの協力の下、Azure でマイクロサービス基盤を構築および運用するためのスタディを行ったうえで、2019 年 11 ~ 12 月に PoC が行われています。さらに 2020 年 4 ~ 6 月に中長期計画を作成。2020 年 8 ~ 10 月にかけて、マイクロサービスの基盤が構築されています。

「ここで重視されたのは、基盤も含めたシステム全体が継続的に成長できることでした」と語るのは、アークウェイ アーキテクチャコンサルティング本部のプリンシパルコンサルタントとして、このプロジェクトに参画している中西 庸文 氏。そのために、以下の 3 つの基盤 (アーキテクチャ) を実装したと説明します。

  1.  Azure Kubernetes Service を中心に Azure で実績のある PaaS 群で構成されるマイクロサービス基盤 (システム アーキテクチャ)
  2. 基盤上で動作するマイクロサービスを構築するためのアプリケーション基盤 (ソフトウェア アーキテチャ)
  3. マイクロサービスの CI/CD、マイクロサービス基盤そのものの自動構築などを担う DevOps 基盤 (DevOps アーキテクチャ)

「たとえば DevOps アーキテクチャでは、Azure DevOps にオープンソースの IaC (Infrastructure as Code) ツールである Terraform を組み込み、自動デプロイを実現しています。これによって Azure がアップデートされた際に、システム基盤の品質を維持し続けられるようにしたのです。ユニチカ様のマイクロサービス基盤では、開発環境、ステージング環境、本番環境の 3 環境をご用意していますが、これらすべての再構築および立ち上げを 8 時間以内で行えるようにしています。これも含め、上記 3 つのアーキテクチャを支えるクラウド プラットフォームとして、Azure は最適であると考えています」。

マイクロサービス基盤の自動デプロイについて「実際には 1 環境を 1 時間半程度でデプロイできます」と言うのは、株式会社NSDからこのプロジェクトに参画している金元 佑樹 氏です。その時間のほとんどはデータのリストア時間であり、環境自体の構築は 30 分程度で完了すると言います。

さらに、これら 3 環境とは別に、確認用の環境をデプロイするためのパイプラインも用意。毎週日曜日には確認用環境を再構築し、毎週のように行われる Azure アップデートで問題が発生しないことを確認していると言います。

「従来であれば、環境の再構築には数か月はかかるはずです」と近藤 氏。「これだけの DevOps 基盤は、他には類を見ないのではないでしょうか」。

機能追加が容易になり保守生産性も向上、業務ドメイン分析に関するスキル向上効果も

このような基盤を確立したうえで、2020 年 11 月に最初のシステム構築に着手。ここでターゲットとなったのが「樹脂シミュレーション」と呼ばれるシステムです。これは、既存システムの移行ではなく新規システム開発であり、2021 年 8 月にリリースしています。

「樹脂シミュレーションは樹脂事業部の在庫管理にまつわる数量と金額のシミュレーションを行うものであり、在庫管理表作成や在庫金額管理、低価法計算、加工賃計算などの機能を備えています」と説明するのは、株式会社クロスユーアイエスからこのプロジェクトに参画している川畑 俊和 氏。以前は表計算ソフトで 1 ~ 2 か月かけて行っていたこれらの計算を、ボタン 1 つで実行できるようにしているのだと言います。「システム化したことでミスもなくなり、予算の正確性も向上しました」。

その後も、社内 5 事業部が使用する CRM システム「SAIL」や、フィルム事業部と加工場が出荷作業の指図データをやり取りするための「UniBase」を、このマイクロサービス基盤上に実装。これらのシステムは、既存システムからのリプレースとなっています。

「マイクロサービス化したことで、細かい機能を追加しやすくなりました」と語るのは、ユニチカ 情報システム部 基幹システムグループ デジタル技術統括チームの國貞 浩良 氏。以前は CRM パッケージを使っていましたが、これを社内開発したことで、コストダウンも可能になったと言います。

また、ユニチカ 情報システム部 基幹システムグループ グループ長であり、UniBase のプロジェクト マネージャーを務める中谷 格 氏は、次のように語っています。

「マイクロサービス化で保守生産性が飛躍的に向上したことで、開発に対するスタンスが大きく変化しました。以前に比べてじっくり業務ドメイン分析を行ったうえで、それを実現するためのサービスを開発するようになったのです。このような分析をしっかり行うことで、独立性の高い疎結合のサービスを実現しやすくなりました」。

近藤 氏は「これは SE にとって重要なスキルです」とも指摘。このような能力があれば事業部に対して、より効果的な DX 提案を行うことも可能になると述べています。

最後に、近藤 氏の後任として 2022 年にユニチカ 情報システム部長に就任した江角 博規 氏は、次のように述べています。

「このプロジェクトを開始した後にコロナ禍が始まり、ビジネスや働き方は大きく変わりました。しかしこのマイクロサービス基盤は、その変化の中でも強力な武器であり続けています。SAIL や UniBase はまだ発展途上ですが、前者は次の営業スタイル、後者は次のサプライチェーンを実現していくうえで重要な役割を果たすことになるでしょう。社内にはまだ古いアプリケーションが数多く残っていますが、これらも段階的にマイクロサービス化していきたいと考えています」。

“ユニチカモデルをさらに前進させるため、クラウドに移行していこうという構想に着手しました。しかし目的はクラウド化自体ではなく、クラウド上でマイクロサービスの基盤を確立することです”

近藤 寿和 氏, 情報システム部 シニアマネージャー, ユニチカ株式会社

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