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2024/12/03

Azure Databricks などを活用し需要予測をサプライチェーン全体で共有、スーパー細川で実証された「食品ロス削減」と「売上向上」の効果

食品ロスを削減しながら、売上増も実現したい。この矛盾しそうな 2 つの目標を掲げて大分県、福岡県内で実施されたのが、「サプライチェーン間のデータ連携による食品ロス削減に関する実証実験」です。

株式会社スーパー細川が実証実験の場と ID-POS データを提供し、今村商事株式会社が需要予測のシステムと予測モデルを作成。2日後の予測データを基に発注を行い、どれだけの効果が得られるのかを検証しました。

その結果、「人による発注」に比べて「需要予測+人による発注」の方が高い予測精度を実現できることが判明。廃棄率が大幅に低下することも示されました。さらに、潜在需要も意識した需要予測を行うことで、売上増への貢献も可能になりました。今後は同様の取り組みを行う仲間を増やしながら、「データの分断で大きな無駄が発生している」という「国内流通の闇」を解消していくことを目指しています。

Super Hosokawa

食品ロスの半分以上を占める「事業系ロス」、その大きな要因は「ブルウィップ効果」

国内だけで年間 523万トン (2021年度)も発生している食品ロス。その半分以上は企業などが排出する、事業系の食品ロスが占めています。事業系の食品ロス量は、 2015年度以降減少を続けてきましたが、2021年度には微増へと反転。SDGsの「つくる責任つかう責任」に含まれる「食料廃棄の半減」を 2030年までに実現するには、さらなる施策が必要です。

その具現化に向けた経済産業省委託事業として、大分県、福岡県内で実施されたのが、「サプライチェーン間のデータ連携による食品ロス削減に関する実証実験」です。システム構築や需要予測モデル作成を担当する今村商事株式会社 (以下、今村商事)、小売事業者として実証実験の場を提供する株式会社スーパー細川 (以下、スーパー細川)、スーパーマーケットが結集した協業組織である株式会社九州シジシー (以下、九州シジシー)、食品メーカー 3社 (旭食品株式会社、九一庵食品協業組合、フジミツ株式会社)、そして経済産業省とのパイプ役を担う株式会社日本総合研究所 (以下、日本総研)の合計 7社が参画。ID-POSを起点とした需要予測の結果を食品流通上の製造/卸/小売間で共有および連携することで、どのような効果が得られるのかが検証されたのです。

その着眼点について「食品流通は、製造/卸/小売に分かれていますが、需要予測に関する情報もそれぞれ分断されているせいで、ブルウィップ効果が生まれています」と語るのは、今村商事でシニアバイスプレジデントを務め、今回の実証実験でも中心的な役割を果たしている林拓人氏です。ブルウィップ効果とは、サプライチェーンにおける「川下」の需要変動が、「川上」に向かうほど増幅する「需要変動現象」のことだと説明します。

「たとえば消費者が 1ケースを必要とした場合、小売は機会損失を避けるため 2ケース並べます。この 2ケースの発注に即時対応するため、卸では 3ケース在庫し、この 3ケースの発注に余裕を持って対応するためメーカーは 4ケース製造してしまうのです。ここで AIなどを活用して “本当の需要”を精度良く把握し、それをサプライチェーン全体で共有できれば、ブルウィップ効果を抑制し事業系食品ロスを減らすことが可能なはずです」。

その一方で「ロスを完全にゼロにしてしまうと販売量がどんどん減ってしまい、事業の発展性が損なわれてしまうという問題があります」と指摘するのは、スーパー細川で代表取締役社長を務める細川唯氏。「無駄なロス」を極小化しながらも、潜在需要を掘り起こすための「チャレンジングなロス」をある程度は許容することも、考えておくべきだと語ります。

「今回の実証実験では AIも活用しながら、需要予測の精度を高めていくのだという話を伺いました。そうであれば、ロスを適切にコントロールしながら、無駄なロスの削減と潜在需要の掘り起こしを同時に実現できるものにしてほしい、とリクエストしました」。

3 年の経験があるパートと同程度というのは、思っていたよりも高い精度です。AI による予測精度は学習を続けることで継続的に高められるため、AI が発注を人に代わって行えるポテンシャルは十分にあります。また現場でも、発注業務の負荷が軽減されており、近い将来には完全自動化もできるのではないかと期待されています

細川 唯 氏, 代表取締役社長, 株式会社スーパー細川

細川 氏と林 氏の紹介写真 Customer Photo

ロスを生みやすい商品を対象に、60パターンのモデルで「2日後の需要」を予測し発注

このように関係者の間で目的のすり合わせを行ったうえで、2023 8月に実証実験の実現に向けたプロジェクトをキックオフ。まずはスーパー細川が保有している ID-POS のビッグデータをフル活用できる、需要予測作成のためのシステムが構築していきます。

ここで採用されたのが、Azure Blob Storage Azure Databricks、そしてAzure上で稼働する Snowflakeです。スーパー細川の ID-POSデータを Web-EDIを介して Azure Blob Storageへと転送、そこから Snowflakeへと集約し、Azure Databricksで分析することで、需要予測モデルを作成しているのです。このような構成にした理由を、林氏は次のように説明します。

「私はもともと三菱食品の営業部門で経験や勘に基づく属人的な仕事をしてきており、2021年に今村商事に来て、これからの流通を創るのはデータであると気付きました。そこで今村商事が提供する研修プログラムを自ら受講、Azure Databricksで基礎的なデータ分析手法を 3日間で学習し、その後 3か月ほどかけて習得したのです。Azure Databricksはデータ分析の経験が短くても習得しやすく、他のさまざまなサービスとの連携も容易です。また Azureのマネージドサービスなのでシステム構築や運用も容易であり、月額千円~数万円程度のコストで使えることも大きな魅力です」。

その後、林氏は、Azure OpenAI Serviceを活用した「顧客ペルソナ」の作成を行うと共に、わずか 4か月間で、60ターンもの需要予測モデルを作成。これと並行して 2023 9月には、実証実験の準備の 1つとして、データに基づく売り場 (棚割)の検証と改善も実施しています。

その対象となったのは、スーパー細川が大分県と福岡県に展開する 3店舗 (万田店、沖代店、豊前店)の豆腐、練り物、揚げ物売り場です。これらが選ばれた理由について「毎日店舗に配達される日配品に含まれており、他の日配品に比べて消費期限が短く、ロスを生みやすい商品だからです」と細川氏は説明。これらの商品の一部は、実証実験における需要予測の対象品目にもなっています。

「最初に棚割の検証、改善から着手したのは、理屈のうえでは正しいはずの棚割と実際の棚割に差異があるケースが少なくないからです」と言うのは林氏です。たとえば人の直感では「安い商品の隣に高額商品を並べても売れるはずがない」と判断しがちですが、データに基づく分析では逆のケースになることが多いのだと言います。

「そこでスーパー細川が保有するビッグデータを分析し、188円の高価格の豆腐を 88円のプライベートブランドの横に置く、などの改善を行いました。当初は店長から、この棚割りでは高額商品は売れないと言われましたが、細川社長に説得していただいた結果、実証実験に入る前の 2023 11月には、単月で 1店舗で 3 4000円の売上増となりました」。

さらに、最初に構築したデータ分析基盤で作成された「2日後の需要予測」を、スーパー細川にフィードバックするしくみも構築。実証実験ではこの「2日後の需要予測」に基づいてメーカーに発注する、というルールが定められました。このような準備を行ったうえで、2024 22日に実証実験を開始。同年 2 23日までのわずか 1か月間で、さまざまな知見を得ることに成功しているのです。

Azure Databricks はデータ分析の経験が短くても習得しやすく、他のさまざまなサービスとの連携も容易です。また Azure のマネージド サービスなのでシステム構築や運用も容易であり、月額千円~数万円程度のコストで使えることも大きな魅力です

林 拓人 氏, シニア バイス プレジデント, 今村商事株式会社

廃棄率削減と売上増に効果があることを実証、今後は仲間を増やし「流通の闇」の解消へ

まず注目したいのが、需要予測の精度です。今回の実証実験では、「人のみによる発注」「需要予測モデルのみ (発注はせず)」「需要予測モデル+人による発注」の 3パターンで精度が計測されていますが、3店舗平均では「人のみによる発注」で発生していた 1 249.8個の誤差が、「需要予測モデルのみ」では 194.1個に減り、「需要予測モデル+人による発注」ではさらに 181.2個にまで削減されています。

また店舗別で見ていくと、20年の経験をもつ店長が発注している万田店では人の精度が若干高い一方で、3年経験のパートが発注している豊前店ではほぼ互角、入社半年のパートが発注する沖代店では需要予測モデルの方が高精度であることがわかっています。

3年の経験があるパートと同程度というのは、思っていたよりも高い精度です。AIによる予測精度は学習を続けることで継続的に高められるため、AIが発注を人に代わって行えるポテンシャルは十分にあります。また現場でも、発注業務の負荷が軽減されており、近い将来には完全自動化もできるのではないかと期待されています」 (細川)

それでは廃棄率 (ロス)の削減ではどのような効果が見られたのでしょうか。まず店頭での廃棄率は、豆腐/揚げ物全体で 0.52%であるのに対し、「需要予測+人による発注」の対象となった豆腐/練り物では 0.20%となっています。また練り物では全体が 0.52%、「需要予測+人による発注」の対象品目は 0.13%となっており、いずれも廃棄率は大幅に減っていることがわかります。

これに加えて、メーカー側の廃棄率削減でも大きな効果が見込まれています。たとえば今回の実証実験の対象となった九⼀庵の 2製品では、これまで廃棄ロス率が 1割だったものが、2日前発注によって廃棄率がゼロになると試算されているのです。また計画的な生産が容易になるため、生産不足や出荷遅延に伴う「緊急対応にかかるコスト」も大幅に削減できると期待されています。

効果はこれだけにとどまりません。驚くべきなのは売上にも貢献していたということです。

「実証実験の期間は、コロナ禍で発行されていたプレミアム商品券がなくなったこともあり、スーパー全体では売上が前年比で 2割程度落ちていました。なのに、実証実験の対象品目は売上金額を維持していたのです。つまり、実質的に 2割の売上増につながったことになります。これは、潜在需要を意識しながら需要予測を作成した結果だと考えています」 (細川)

今後は九州シジシーに加盟する他のスーパーにも、「需要予測を進めながら物流も変えていく」ことを提案し、同じ取り組みを行う仲間を増やしていきたいと細川氏。既に 2024 8月には他社への提案を開始していると語ります。その一方で、Azure OpenAI Serviceだけではなくさまざまな生成 AIのモデル運用を行うことや、生成AIのモデル管理に Azure AI Studioを活用していくこと、受発注の自動化など外部システムとの連携まで見据えたシステム構築も計画されています。

「これまでは流通の中で 小売業が王様だという意識が強く、POS ID-POSのデータも公開されないままでしたが、もうそんなことを言っている場合ではありません。小売で見えている無駄は氷山の一角であり、メーカーではかなりの廃棄物が生まれています。このような国内流通の闇をなくすには、サプライチェーン全体をシームレスにつなぐ必要があります。その実現に向けマイクロソフトには、今後もテクノロジー面での支援をお願いしたいと考えています」 (細川)

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