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2024/12/24

ウィーメックスが Azure OpenAI Service を活用した「生成AI薬歴入力支援サービス」を実現、音声録音から十数秒で SOAP 形式のテキストを自動生成

ウィーメックスは、厚生労働省が推進する「対物から対人へ」の流れを後押しするため、薬局向けに薬歴管理ソリューションを提供。しかし薬歴入力は薬剤師が手作業で行う必要があり、その効率化へのニーズが高まっていました。これまでも「定型文の用意」などの取り組みは行っていましたが、薬歴の内容は患者によって異なるため、定型化は難しいと断念。この悩みを解決する新たなアプローチに道を開いたのが、生成 AI の登場でした。

服薬指導の音声を Azure AI Speech でテキスト化し、Azure OpenAI Service で「SOAP」形式の薬歴を生成する「生成AI薬歴入力支援サービス」を開発。システム基盤として Azure が採用されたのは、雑音の多い音声でも適切なテキストを生成しやすいことと、医療情報システムのセキュリティ要件などを定めた「3省2ガイドライン」への準拠が容易なことでした。またシステム インフラには Azure のベアメタル インフラストラクチャを採用することで、安定的かつ高速なレスポンスも実現しています。

「生成AI薬歴入力支援サービス」によって、服薬指導時に音声を録音するだけで、十数秒で SOAP 形式のテキストが自動生成され、薬剤師がより多くの時間を患者との対話に費やせるようになりました。また生成 AI が作成した薬歴は、経験の浅い薬剤師が薬歴の記述方法を学んだり、ベテラン薬剤師が自分の服薬指導のあり方を見直すうえでも、大きな貢献を果たすと期待されています。ブース展示を行った第 57 回日本薬剤師会学術大会でも高く評価されており、既に数多くの引き合いが来ています。

Wemex

厚生労働省が推進する「対物から対人へ」、薬歴入力の手間が大きな壁に

1972 年に日本初の医事コンピューター「メディコムMC-1」を発売。多くの医師やスタッフを悩ませていた「レセプト」の電子化をいち早く実現したウィーメックス株式会社 (以下、ウィーメックス)。その後も時代に先駆けた医療機関向け製品を数多く開発し、医療現場の効率化をサポートし続けています。ヘルスケアをデジタルで変革することで、生活者の「Well-being」の実現を目指しているのです。

「当社は日本の医療と健康をトータルに支える、幅広いソリューションを提供しています」と語るのは、ウィーメックス ヘルスケアIT事業部 プロダクト&サービス開発部 クラウド開発推進課 課長の奥村 圭司 氏。その領域は、電子カルテなどの医事情報システムから遠隔医療ソリューション、健康診断データを管理する総合健康ソリューションなど、多岐にわたっていると言います。「市場シェアも高く、電子カルテシステムは診療所シェア No.1※1、医事コンピューターは診療所、病院共にシェア No.1※2 となっています」。

(脚注)
※1 出典:株式会社富士経済「2023 医療・ヘルスケア DX 関連市場の現状と将来展望」より 2022 年企業シェア・金額ベース 診療所向け電子カルテ (PHC 実績)

※2 出典:株式会社富士経済「2022 年 医療連携・医療プラットフォーム関連市場の現状と将来展望」より 2020 年企業シェア・数量ベース レセプトコンピューター (PHC実績)

同社の事業領域の中には、薬局向けのソリューションも含まれています。2018 年 6 月には保険薬局用電子薬歴システム「PharnesV-MX」の販売を開始し、薬歴管理などの薬剤師の業務を効率化。さらに 2023 年 11 月には、情報処理能力を高め、よりスムーズな操作を実現した保険薬局向けシステム「PharnesX (ファーネスクロス)」シリーズも発売しています。

Yusuke Yoda, IT Infrastructure Promotion Department, DENSO

当社は医療やヘルスケアの幅広い領域をカバーする、さまざまなソリューションを提供しています。生成 AI を活用したソリューションをこれらと組み合わせることで、より大きな価値を提供できると考えています

奥村 圭司 氏, ヘルスケアIT事業部 プロダクト&サービス開発部 クラウド開発推進課 課長, ウィーメックス株式会社

「薬歴」は、患者に適切かつ安全な薬を提供するために、服薬指導の際に患者から聞き取った情報や指導内容などを記録したものであり、他の薬剤師が読んでも理解できるように記述することが求められます。そのため、医療・看護の世界で広く使われている「SOAP」という記述手法を採用しています。これは「主観的情報 (S:Subjective)」「客観的情報 (O:Objective)」「評価 (A:Assessment)」「計画 (P:Plan)」を明確に分けて記述する、というものです。

「これらのソリューションは、厚生労働省が推進している『対物から対人へ』の流れを後押しするためのものです」と語るのは、ウィーメックス ヘルスケアIT事業部 調剤プロダクト課 主任で、ご自身も薬剤師の資格をもつ北川 完嗣 氏です。薬歴管理などの薬剤師の業務を効率化することで、患者に向き合う時間をより多く確保することが最大の目的なのだと説明します。

「しかし患者から聞き取った内容を記録するには、お話を聞いた後で手入力する必要があり、その作業にかなりの時間がかかっていました。これを簡略化できないかというご要望は、以前からも多くの薬剤師からいただいていました」。

Yusuke Yoda, IT Infrastructure Promotion Department, DENSO

患者から聞き取った内容を記録するには、お話を聞いた後で手入力する必要があり、その作業にかなりの時間がかかっていました。これを簡略化できないかというご要望は、以前からも多くの薬剤師からいただいていました

北川 完嗣 氏, ヘルスケアIT事業部 調剤プロダクト課 主任, ウィーメックス株式会社

「3省2ガイドライン」への準拠を容易にするため全面的に Azure を採用

「薬歴入力の省力化はこれまでもチャレンジしてきました」と語るのは、ウィーメックス ヘルスケアIT事業部 プロダクト&サービス開発部 クラウド開発推進課で、開発業務を担当している関口 卓弥 氏。そのために「定型文を用意しておく」という取り組みも行ってきましたが、薬歴入力は患者ごとに入力内容が異なるため、このような「定型業務化」のアプローチは適切ではなかったと振り返ります。

この悩みを解決する新たなアプローチに道を開いたのが、2022 年 11 月に行われた ChatGPT の提供開始でした。

「薬剤師と患者の会話音声からテキストを抽出し、それを生成 AI に読み込ませれば、SOAP 形式へと自動的にまとめることも可能だと考えました。そこで ChatGPT だけではなく他の生成 AI も試しながら、どのような方法で実現すべきかの検討を進めていきました」 (関口 氏)。

ただし、生成 AI を薬歴入力に使うには、大きく 2 つのハードルを乗り越える必要がありました。1 つは、薬局での会話には雑音が入りやすく、そこから正しいテキストを作成することが意外と難しいこと。もう 1 つは医療関係のソリューションであるため、厚生労働省、経済産業省、総務省によって制定された医療情報システムに関する指針である「3省2ガイドライン」に準拠する必要があることです。このガイドラインの中には、サイバー攻撃の多様化および巧妙化や個人情報保護などを踏まえた、セキュリティ要件も含まれています。

「雑音が多い音声のテキスト化と『3省2ガイドライン』の準拠のため、最終的に Azure 上での構築を決めました。雑音混じりの音声でも Azure の音声認識 AI (Azure AI Speech) と Azure OpenAI Service の組み合わせであれば、他と比較しても正しいテキストが出力されました。またセキュリティ面でも Azure は優位性が高く、学習に関するルールが明示され、問題が起きたときには国内裁判所が使えることも、安心材料となりました」 (関口 氏)。

特にセキュリティとプライバシーが担保されていることは、重要な要件だったと関口 氏は指摘します。これによって、セキュリティ確保のための非機能要件に時間を費やす必要がなくなり、ソリューション機能の開発に専念できるからだと説明します。「当社では他にもクラウドを活用したソリューションを提供していますが、これらも『3省2ガイドライン』に準拠するため、全面的に Azure を採用しています」。

そしてもう 1 つ、Azure OpenAI Service の利用にあたっては、プロビジョニング スループット ユニット (PTU) というオファリングを活用して、安定した最大待ち時間とスループットを実現しているのです。

「当初は従量課金の共有リソースを使っていましたが、レスポンス時間にばらつきがあり、タイムアウトしてリトライになることもありました。しかし今では短時間でのレスポンスを安定的に実現できるようになっています」。

Yusuke Yoda, IT Infrastructure Promotion Department, DENSO

雑音が多い音声のテキスト化と『3省2ガイドライン』の準拠のため、最終的に Azure 上での構築を決めました。雑音混じりの音声でも Azure の音声認識 AI (Azure AI Speech) と Azure OpenAI Service の組み合わせであれば、他と比較しても正しいテキストが出力されました。またセキュリティ面でも Azure は優位性が高く、学習に関するルールが明示され、問題が起きたときには国内裁判所が使えることも、安心材料となりました

関口 卓弥 氏, ヘルスケアIT事業部 プロダクト&サービス開発部 クラウド開発推進課, ウィーメックス株式会社

服薬指導時に音声を録音するだけで、十数秒で SOAP 形式のテキストを自動生成

音声認識 AI と生成 AI を組み合わせた「薬歴入力システム」の最初のバージョンができあがったのは 2023 年 10 月。このころはまだ Azure ではなく ChatGPT が使われていましたが、前述の要件を満たすため、最終的に Azure 上で構築する意向であることが発表されています。

このシステムを同月に行われた第 56 回日本薬剤師会学術大会に参考出展したところ、「これなら使える」と好評を得ることに。これと並行して実証実験もスタートし、テキストを SOAP 形式に変換するためのプロンプト チューニングなどが行われています。

2024 年 5 月には、より大規模な実証実験に着手。北海道 札幌を中心に北日本で事業を展開する株式会社ツルハホールディングスなどの協力の下、2 店舗で約 400 件の服薬指導がこのシステムで行われました。その結果を受け 2024 年 7 月からは、関西、関東を中心に東海、北陸、中国地方に店舗を展開するサエラ薬局での実証実験もスタート。これも含め、合計約 3,000 件の服薬指導を通じて、機能改善が進められていきました。

2024 年 9 月には「生成AI薬歴入力支援サービス」として製品版をリリースしました。

「生成 AI を活用した薬歴入力サービスによって、服薬指導時に音声を録音するだけで、十数秒で SOAP 形式のテキストが自動生成できるようになりました」と関口 氏。そのうち Azure OpenAI Service のレスポンス時間は平均 10 秒未満で、きわめて安定していると言います。「薬剤師は薬歴を自分で入力する必要がなくなり、生成 AI が作成した SOAP 形式の記録を確認し、必要に応じて修正するだけなので、より多くの時間を患者との対話に費やすことができます」。

その一方で、「生成AI薬歴入力支援サービス」の効果は、薬剤師の業務効率化だけではないと指摘するのは北川 氏です。

「薬歴入力には経験が必要なので、経験の浅い薬剤師の中には薬歴をうまく書けない人もいますが、生成 AI が作成した薬歴を見ることができれば書き方を学びやすくなります。またベテラン薬剤師にとっても、自分の服薬指導が患者にとってわかりやすいものだったのかどうか、作成された薬歴を見ることで再確認できます。このような意識が高まることで、より患者にわかりやすい服薬指導を行えるようになります」。

製品版の販売開始から半月後には、「第57回日本薬剤師会学術大会」に「生成AI薬歴入力支援サービス」をブース展示。ここでも高い評価を得ており、既に数多くの引き合いが来ていると言います。

しかしウィーメックスによる「薬歴入力/管理の効率化」への挑戦は、これで完了したわけではありません。既に提供されているソリューションとの連携や、2024 年 9 月 30 日に販売開始された「Wemex オンライン服薬指導」と組み合わせたソリューションの実現に向けた取り組みも、着々と進められているのです。

「当社は医療やヘルスケアの幅広い領域をカバーする、さまざまなソリューションを提供しています。生成 AI を活用したソリューションをこれらと組み合わせることで、より大きな価値を提供できると考えています」 (奥村 氏)。

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