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2025/02/07

「SAWAI DX」により業務プロセス改革に取り組む沢井製薬。Azure OpenAI Service 導入により閉じた環境で研究員の相談相手に AI エージェントを活用

沢井製薬製剤研究部は、過去の開発に関する膨大な報告書データを生かしきれず、必要な情報を探すのに多くの手間と時間を要していた。また、製剤開発の経験が浅い研究者(若手、部署異動者)の検討レベルや成長速度の向上が課題となっていた。これらを解決する仕組みの構築が急務だった。

Azure OpenAI Service を導入し、セキュリティを担保した閉じた環境のもとでベテラン研究員のように「相談相手として生成 AI を活用」する仕組みを構築。AI エージェントが質問を解釈し自律的に考えて、検索をおこない回答を生成する工夫を施した。

部門全体での利用頻度は 平均して月間 100 回に及ぶ。利用者に対するアンケート結果では、回答に対して高い評価を獲得。検索情報源の幅を広げてほしいとの要望も多く、ニーズも高い。また、実際の開発段階で生じた問題点に関して、生成 AI を試しに使ってみたところ、リファレンスを提示し実力を証明した。

Sawai Pharmaceutical

ベテラン研究者の代わりに相談相手として生成 AI を活用

医療の高度化、超高齢化社会が進む中、ジェネリック医薬品のニーズがますます高まっています。「ジェネリック」という言葉が一般的ではない時代から、啓蒙・普及に力を注いできたのが沢井製薬です。「なによりも患者さんのために」という理念のもと、半世紀以上にわたり、安価で高品質なジェネリック医薬品の提供を通じて人々の健やかな暮らしの実現に貢献してきました。また、薬は毎日正しく飲み続けることが大切です。同社は、「良薬は口に良し」を目指し、あらゆる角度から飲みやすさ、扱いやすさを徹底追及。オリジナル製剤技術群を「SAWAI HARMOTECH®(サワイ ハーモテック)」と総称し、ジェネリック医薬品の可能性を広げています。

同社は理念の具現化に向けて、ビジネスプロセス変革や新しいビジネスモデル創出を実現する Sawai DX に取り組んでいます。Sawai DX において、データ活用による業務プロセス改革は重要なテーマです。

同社では、生活習慣病治療剤、抗がん剤など高品質なジェネリック医薬品を 800 品目以上開発。製剤開発では、安定性や苦みの抑制など悩んでいる課題に対し、解決のヒントを得るべく過去に開発した際の報告書を参考にします。膨大な報告書から必要な情報にどれだけ早くアクセスできるか。それによって初動のスピードや検討レベルが大きく変わります。「良薬は口に良し」を目指す製剤開発における従来の課題について、沢井製薬 製剤研究部 製剤Ⅱグループ 主任研究員 西村卓朗氏は話します。「従来は、必要な情報を得るためにベテラン研究者に直接話を聞きに行く必要がありました。最近になって報告書が PDF 化されたものの、キーワード検索では回答が網羅的ではなく、ワードを変えて検索してもなかなか目的の情報が見つからない状況です。ベテラン研究者に依存している状態は変わっていません」

膨大な報告書をいかに製剤開発における生産性や品質の向上に生かすか。西村氏は、ChatGPT が注目を集める中、「ベテラン研究者の代わりに、相談相手として生成 AI を活用する」という着想を得ました。

クラウド上の閉域網によりセキュリティを担保し生成 AI を活用

同社には、各部門が取り組みを発信するコミュニティサイトがあります。西村氏は、情報システム部門のサイトで「豊富な知識を誇る“ベテラン社員”のような生成AIを作りたい」とコメントしました。すぐに「やりましょう」という返事が来たことが、プロジェクト誕生のきっかけとなりました。

同社は、日本マイクロソフトから企業全体に専門技術のサポートを行うユニファイドサポートの提供を受けていました。定例会議において、沢井製薬情報システム部門は製剤研究部が生成 AI を活用したいと考えていることを日本マイクロソフトに伝達。製剤研究部と日本マイクロソフトが意見交換を行うことで、プロジェクトは具体的に動き出しました。

製剤研究部と情報システム部門は、プロジェクトのパートナーとなるベンダーの検討を開始。複数社に対し、見積もりを依頼するとともに実績を含めてプレゼンテーションをおこなってもらいました。総合的観点から最終的に選択したのが、マイクロソフト製品に強く、Azure OpenAI Service に精通するベーシックです。理由について、西村氏と一緒にコンセプトを作った、沢井製薬 製剤研究部 製剤Ⅱグループ 博士(薬科学研究員 木全崚太氏は説明します。

RAG(検索拡張生成)を使って社内データを活用し、生成 AI を研究者の相談相手として使いたいという話をした時に、質疑応答の的確性とレスポンスの良さに、生成 AI に関する豊かな知見と実践的アプローチが随所にあり、他社とは異なる独自性と強みを感じました」

製剤研究部の部長に、西村氏たちは見積もりを含めて提案をおこない、了承されました。このボトムアップのプロセスがスムーズに進んだ背景には、従業員の自主性や挑戦を重んじる社風が根付いていたことが大きな要因です。また、Sawai DX の取り組みの一環として位置付けられていたことも、社内の理解と協力を得やすくする重要な要素でした。

製剤研究部が生成 AI を活用する際に最も重視したのがセキュリティでした。報告書には特許情報を含む機密情報が多く含まれるためです。「情報システム部門に相談すると、Azure OpenAI Service はクラウド上で閉域網を構築し、セキュリティを担保したうえで ChatGPT を利用できるとの話がありました。情報漏えいの心配もなく、先進的な生成 AI を使えるというのが Azure OpenAI Service 採用の決め手でした」(木全氏)

木全 崚太 氏, 製剤研究部 製剤Ⅱグループ 博士(薬科学) 研究員, 沢井製薬株式会社

情報システム部門に相談すると、Azure OpenAI Service はクラウド上で閉域網を構築し、セキュリティを担保したうえで ChatGPT を利用できるとの話がありました。情報漏えいの心配もなく、先進的な生成 AI を使えるというのが Azure OpenAI Service 採用の決め手でした

木全 崚太 氏, 製剤研究部 製剤Ⅱグループ 博士(薬科学) 研究員, 沢井製薬株式会社

AIエージェント が自律的に質問を解釈して検索し回答

2024 年 1 月に、沢井製薬社内情報システム部門で Azure OpenAI Service の PoC(概念実証)を実施。求めていた回答が得られなかったため、2024 年 2 月に、ベーシックに回答精度の向上を依頼しました。生成 AI が扱うデータ整備で大きなボトルネックがあったと、ベーシックシステム部門 第一統括 グループマネージャー 野崎俊弘氏は話し、説明します。
「製剤研究部では、開発に関する報告書に多くの表形式データが含まれています。RAG を効果的に活用するためにこれらのデータを小さなサイズ(チャンク)に分割する工程が必要でしたが、その処理を機械的におこなったことで表が途中で切れてしまうケースが発生しました」これらが原因となった回答精度の低さ、回答が返ってこない課題について、ベーシックで検討を重ねた結果取った対応について野﨑氏は続けます。「Microsoft Azure AI Document Intelligence を利用し、AI と OCR によりドキュメントからテキストと構造(表、タイトル、段落など)を抽出します。その情報をインデックスに活用することで、表形式のデータが途中で途切れることなく、さらに意味的なチャンク分割(Semantic Chunking)を機械的に実現でき、回答精度の向上が達成できました」

また、回答精度向上のアプローチとして、初めに汎用的なRAGの精度改善を実施し、次に利用者のニーズに沿った回答ができるようにSTEPを重ねていくこともポイントです。今回のプロジェクトにおける重要なテーマは、「ベテラン研究員ならこう答える」という回答にいかに近づけることができるか。ベーシックは製剤研究部の要件に応えるために、生成AIが自律的に情報検索などのタスクを遂行する「エージェント」と呼ばれる仕組みを導入しました。たとえば、2 つの医薬品の成分を比較したい場合、医薬品 A を検索し、次に医薬品 B を検索し、その検索結果を見比べて回答を出すことが求められます。エージェントの AI が自律的に質問を解釈し、必要な回数検索して回答を出す。これを実現するために、エージェントの AI のチューニングを繰り返しました。生成 AI に対する指示の出し方(プロンプト)によって回答は変わります。ベーシック システム部門 第一統括 ミッションマネージャー 阿部隼人氏は「エージェントを導入することで、より柔軟に情報を検索し精度高く回答を返す仕組みを実現しています。また、ユーザーの入力が不足している場合は、『何の素材に対する試験結果ですか?』など質問を聞き返し、フォローアップする工夫もしています」と開発における配慮について述べます。

野崎 俊弘 氏, システム部門 第一統括 グループマネージャー, 株式会社ベーシック

Microsoft Azure AI Document Intelligence を利用し、AI と OCR によりドキュメントからテキストと構造(表、タイトル、段落など)を抽出します。その情報をインデックスに活用することで、表形式のデータが途中で途切れることなく、さらに意味的なチャンク分割(Semantic Chunking)を機械的に実現でき、回答精度の向上が達成できました

野崎 俊弘 氏, システム部門 第一統括 グループマネージャー, 株式会社ベーシック

部門全体で月に 100 回は利用、若手研究者の成長速度向上に期待

「AI の回答精度は 80 点あれば十分」ということをベーシックに伝えていたと西村氏は話し、その真意を説明します。「100 点を目指すと時間も工数もかかります。そこにあまり意味がないと思っています。『相談相手に生成 AI を活用する仕組み』を使う研究者は、基礎知識は持っています。生成 AI の回答が物足りないと思っても、関連した報告書にアクセスさえできれば、あとは研究者の知識で補完できます。リファレンス(参考資料)に当たりやすいようにしてほしいという要望を、ベーシックに伝えました。80 点は達成できていると思います」

2024 年 8 月から、「相談相手に生成 AI を活用する仕組み」を製剤研究部全体に展開。現在、同部の全研究者 50 人が使える状態となっており、部門全体で利用頻度は 100 回/月に及びます。「製剤研究部の研究員にとって、ベテランに相談するのと同様に会話型で質問できる点が使いやすさにつながっています。『素材 B で作った事例を当たりたいので、素材 B を使ったパターンの検討データや、その時に起きたトラブルを教えて』という使い方が多いですね」(西村氏)

利用者に対するアンケート結果では、回答に対して高い評価が得られたと木全氏は付け加えます。「いくつか要約したものが列挙されて、そこにリファレンスがつきます。まず要約で確認し、自分がほしい情報に近いリファレンスを見に行く使用法もユーザー満足度を高めていると思います。今は、包括的な報告書しか検索できないので、細部の報告書や国で定めたガイドラインなど、さまざまなデータを入れてほしいという要望も多く寄せられており、期待の高さがうかがえます」

同社では、さまざまな専門性を持つ人材が、コラボレーションすることが、価値創出につながると考えています。一方で、人材の流動性が高まった場合でも、高い検討レベルを維持する仕組みが必要でした。「バックグラウンドが違う人材が集まって製剤開発を行うのは、知識補完の観点で大切です。部署異動者も若手社員も、生成 AI にわからないことを聞くことができる環境のもと成長速度の向上を期待しています」(西村氏)

今後の展望について「生成 AI が報告書を作成してくれると、研究員の生産性がさらに高まります」と木全氏は話します。西村氏も「私たちは実験してグラフを作成するだけ。あとは生成 AI がグラフや計画書、トレンドのデータを解釈し、出社したら原稿案ができている。研究員と AI のディスカッションによって、ブラッシュアップして提出する。同時にナレッジが自動的に溜まっていくという仕組みが目指す姿だと思います。ベーシックの支援も大いに期待しています」と付けくわえます。

OpenAI が開発した対話型 AI の最新モデル「GPT-4o(Omni、、オムニ)」は、画像、音声、動画などを扱えるマルチモーダルです。生成 AI による報告書原稿案作成も技術的には実現できるとベーシックは話します。また「良薬は口に良し」に関して、味の評価も AI が行うなど活用シーンが拡大しています。

生成AIが研究員をアシストすることで、沢井製薬の理念である「なによりも患者さんのために」の実現が加速していきます。

西村 卓朗 氏, 製剤研究部 製剤Ⅱグループ 主任研究員, 沢井製薬株式会社

バックグラウンドが違う人材が集まって製剤開発を行うのは、知識補完の観点で大切です。部署異動者も若手社員も、生成 AI にわからないことを聞くことができる環境のもと成長速度の向上を期待しています

西村 卓朗  氏, 製剤研究部 製剤Ⅱグループ 主任研究員, 沢井製薬株式会社

阿部 隼人 氏, システム部門 第一統括 ミッションマネージャー, 株式会社ベーシック

エージェントを導入することで、より柔軟に情報を検索し精度高く回答を返す仕組みを実現しています。また、ユーザーの入力が不足している場合は、『何の素材に対する試験結果ですか?』など質問を聞き返し、フォローアップする工夫もしています

阿部 隼人 氏, システム部門 第一統括 ミッションマネージャー, 株式会社ベーシック

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