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2025/02/26

日本ハムが Azure OpenAI Service を活用し「生成された顧客」分析を実現、生活者 1,000 人へのアンケート調査がわずか 45 分で実施可能に

大手コンビニチェーンなどに向けたプライベート ブランド商品の提案と開発も手掛けている日本ハム。その提案フェーズでは、生活者を深く知るための N1 分析※1が行われています。しかし営業部門でこの N1 分析を全て実施し提案書に落とし込むには、時間とコストが非常にかかるという課題がありました。このような課題を解決する手段として着目されたのが生成 AI です。より多くの生活者を対象にした分析を、より短時間かつ低コストで行うことを目指し、「GC (Generated-Customer) 分析」の開発がスタートします。

GC 分析とは、生成 AI による生活者の「擬似人格」がアンケート調査に回答する、というしくみです。生成 AI としては、既に全社向けに導入されていた Azure OpenAI Service を活用、UI アプリは Python によって内製し、クライアント PC で動かしています。疑似人格のベースとなる生活者データは、保有していた約 2 万人の生活者プロファイリングデータを活用。人に対するアンケート調査を精度良く再現するため、多様性を担保するためのパラメーター調整も行われています。

GC 分析を利用することで、1,000 人分のアンケート調査をわずか 45 分で実施することが可能になりました。また実施コストも 1 回あたり 100 円強と、きわめて安価になっています。これによって、顧客提案時の生活者調査と仮説構築の時間を大幅に短縮。顧客からも「客観的かつ説得性が高い」と評価され、商談成約率も向上しています。今後は、クライアント PC 上で稼働している GC 分析アプリの Web 化などを行うと共に、適用領域をバリューチェーン全体に拡大していくことが目指されています。

NH Foods

時間とコストがかかっていた生活者への N1 分析、生成 AI 活用でこの問題の解決へ

日本ハムは食の新たな価値を創造するため、大手コンビニ チェーンなどに向けたプライベート ブランド商品の提案と開発も手掛けていますが、ここで生成 AI を活用したユニークな取り組みが進められているのです。

「当社のプライベート ブランド領域における商品開発は、案件発生、生活者への調査分析、仮説構築、試作改良、商談成立、というプロセスで進んでいきます」と説明するのは、日本ハム IT戦略部でマネージャーを務める藤本 芳人 氏。今回の取り組みはこれらの中でも、調査分析と仮説構築に焦点を当てたものだと説明します。「たとえばコンビニ チェーン様にプライベート ブランド商品を提案する際には、この 2 つのプロセスだけで 1 ~ 2 か月かかることが一般的です。生成 AI を活用すれば、これを大幅に短縮できると考えました」。

「特に時間とコストが掛かるのが、生活者への調査分析です」と語るのは、日本ハム 加工事業本部 営業統括事業部 CVS開発営業部で課長を務める服部 宏 氏。当課では特定の 1 人の生活者をより深く知るために「N1 分析」という分析手法を利用していますが、ターゲットへのインタビューによりニーズ・課題の抽出、商品コンセプト、コミュニケーションアイデアへの落とし込み等に非常に多くの時間を費やしています。

「当課では常にユーザーのことを考え、品位の高い商品を生み出すことを重視しています。そのため ターゲットとするセグメントごとに 2 ~ 3 名のインタビューを実施、意見の集約・アウトプット、その後にその数名の意見についてインターネット調査 (500 ~ 1,000 人) を活用して検定し、信憑性を高める作業を実施してきましたが、これだけで半月 ~ 1 か月はかかっていました。このような悩みの解決方法として、藤本から『生活者の擬似的なペルソナを生成 AI で作れそうだ』という話をもらい、それならぜひやりたいと返答。私の上司も『すぐにやるべき』だと、積極的に後押ししてくれました」。

2024 年 4 月には、IT戦略部 マネージャーの藤本 氏とリーダーの井波 貴一朗 氏、服部 氏の 3 名がタッグを組み、「GC 分析による商品開発プロセスの高速化」というプロジェクトをスタート。GC とは「Generated-Customer」の略であり、「生成された顧客」を意味しています。

藤本 芳人 氏, IT戦略部 マネージャー, 日本ハム株式会社

1,000 人分の調査を 1 回行うために必要な時間はわずか 45 分、コストも 100 円ちょっとです。これなら得意先から依頼された翌日には分析結果を提示できます。また、生成 AI はどのような面倒な設問でも途中離脱せず、ていねいに回答してくれます。さらに、生成 AI がネット上で学習した声が反映されているため、素直で厳しめの回答が得られることも、生活者へのアンケート調査として優れていると言えます

藤本 芳人 氏, IT戦略部 マネージャー, 日本ハム株式会社

約 2 万人のプロファイルを元に擬似人格が回答、多様性担保のためパラメーターも工夫

ここで生成 AI として採用されているのが、Azure OpenAI Service (GPT-4o mini) です。実は日本ハムでは、株式会社システムサポート (以下、システムサポート) の「Smart Generative Chat」を利用した生成 AI 環境が、2024 年 2 月に Azure 上で構築され、同年 5 月に全社リリースされているのです。ここで採用された Smart Generative Chat について、株式会社システムサポート SHIFTEE部 技術マネージャの二宮 恵三 氏は次のように説明します。

「Smart Generative Chat は、Azure OpenAI Service などを利用して情報の安全性を確保しつつ、最新の AI テクノロジーを誰でも簡単に利用できる、豊富な機能を提供しています。具体的には、ガバナンスを強化できる管理機能、プロンプト入力なしに AI と対話できるシナリオ機能、社内データのベクターサーチを可能にする Embedding Chat 機能、データ分析や自動コード実行できるアシスタント API などを装備しています」。

全社向け生成 AI として Azure OpenAI Service が選ばれたのは「既に全社で Microsoft 365 を利用しており、そのセキュリティ機能がそのまま利用できるからです」と藤本 氏は説明します。また生成 AI 環境構築のパートナー選定ではコンペを実施しており、その中からコスト メリットの高い提案をしたシステムサポートを採用。なお GC 分析の開発でも、システムサポートの技術支援を受けていると言います。

GC 分析ではこの生成 AI 環境を使いつつ、Python で内製された UI アプリをクライアント PC で動かすシステムを構築。その具体的な処理内容について、藤本 氏は次のように説明します。

「当社には 70 ~ 80 のデータ項目を持つ、約 2 万人の生活者プロファイリングデータがあります。Python で作成されたアプリの基本的な処理内容は、このプロファイリングデータの中から特定セグメントに対応する生活者をピックアップし、そのプロファイリングデータとアンケート内容を 1 人分ずつ生成 AI に投げ、生成された回答をレポートする、というものです。つまり 1 人 1 人のプロファイリングに対応した疑似人格が、アンケートに対してそれぞれの回答をしてくれるのです」。

さらに、実際に Python でアプリを作成した井波 氏は、次のように語っています。

「生活者への N1 分析に近づけるうえで重要なことは、回答者の多様性です。そのため GC 分析では、Top P※2 や Temperature※3 といったパラメーターを調整することで、回答者の多様性を担保するようにしています。Azure OpenAI Service はこのような調整が行いやすく、アプリからのアクセスも容易です。回答内容も実際のネット調査に近い、かなりいい結果が返ってきます」。

質問内容の入力方法は、入力フォームでの自由記述のほか、選択肢から選ぶ方法も提供。実行を開始すると進捗状況がパーセンテージで表示され、完了するとアンケート結果ファイルが作成されます。さらにアンケート結果を解析し、選択式回答の集計や類似ニーズの集計を短時間で行うツールも提供。だれでも効率的に使えるよう、UI/UX にも徹底的にこだわったと藤本 氏は述べています。

※2 Top P:回答候補から出力を選択する際に、登場確率の高い順に候補を並べ、そのうち上位何% までを選択対象にするかを定めるパラメーター。これを大きく設定することでより多くの回答が「足切り」されることなく出力されるため、回答のばらつきが大きくなり、多様性を担保しやすくなります。

※3 Temperature:生成 AI モデルが出力する確率分布の形を調整するパラメーター。この値を大きくすることで、確率分布の形が緩やかになり、確率の高い回答と低い回答の差異が縮まることで、多様な回答が得られやすくなります。

服部 宏 氏, 加工事業本部 営業統括事業部 CVS開発営業部 課長, 日本ハム株式会社

私自身は 5,000 人分の GC 分析を行い、お客様には「1 人への調査✕ 5,000 人分」と言っていますが、5,000 人分のデータを短時間で持ってきたことにまず驚かれます。一人を対象にした N1 分析も継続的に行っていますが、これに GC 分析を組み合わせることで、より深く広く生活者を理解できるようになります。お客様からも「より客観的で説得性が高い」と評価されており、商談化率も向上しています

服部 宏 氏, 加工事業本部 営業統括事業部 CVS開発営業部 課長, 日本ハム株式会社

IT 部門と営業部門が連携し短期間で完成度を向上、顧客も「客観的で説得性が高い」と評価

2024 年 5 月からは、GC 分析の結果をコンビニ チェーンへの提案に活用し、そこで得られた顧客の反応をフィードバックしながら改善が繰り返されていきました。「提案現場で得られた知見やニーズは、すぐに IT戦略部が反映してくれました」と服部 氏。完全に内製化していたことに加え、IT部門と営業部門が密接に連携することで、完成度を短期間で高めることが可能になったのです。実際に改善フェーズは 4 か月でほぼ完了。2024 年 8 月からは本格的な活用が始まっており、複数商談の成功に貢献しています。

それでは、日本ハムの GC 分析は具体的にどのようなメリットをもたらしているのでしょうか。最も重視すべきことは、従来では時間とコストで課題のあった生活者のニーズや意識などに関するアンケート調査を短時間かつ低コストで、より多くの生活者を対象に行えるようになったことだと言えるでしょう。

「1,000 人分の調査を 1 回行うために必要な時間はわずか 45 分、コストも 100 円ちょっとです。これなら得意先から依頼された翌日には分析結果を提示できます。また、生成 AI はどのような面倒な設問でも途中離脱せず、ていねいに回答してくれます。さらに、生成 AI がネット上で学習した声が反映されているため、厳しめの回答が得られることも、生活者へのアンケート調査として優れていると言えます」(藤本 氏)。

これだけ高速かつ低コストでの生活者調査は、従来では考えられなかったものだと言えるでしょう。その結果を基に仮説構築を行い、それらを実際にコンビニ チェーンなどに対して行っている服部 氏は、次のように述べています。

「私自身は 5,000 人分の GC 分析を行い、お客様には「1 人への調査✕ 5,000 人分」と言っていますが、5,000 人分のデータを短時間で持ってきたことにまず驚かれます。一人を対象にした N1 分析も継続的に行っていますが、これに GC 分析を組み合わせることで、より深く広く生活者を理解できるようになります。お客様からも『より客観的で説得性が高い』と評価されており、商談化率も向上しています」。

井波 貴一朗 氏, IT戦略部 リーダー, 日本ハム株式会社

生活者への N1 分析に近づけるうえで重要なことは、回答者の多様性です。そのため GC 分析では、Top P や Temperature といったパラメーターを調整することで、回答者の多様性を担保するようにしています。Azure OpenAI Service はこのような調整が行いやすく、アプリからのアクセスも容易です。回答内容も実際のネット調査に近い、かなりいい結果が返ってきます

井波 貴一朗 氏, IT戦略部 リーダー, 日本ハム株式会社

今後は最適化や工場のコスト削減など、バリューチェーン全体に適用領域を拡大

このように、取り組み開始から短期間で大きな成果を生み出している GC 分析ですが、これはまだ最初の一歩に過ぎません。今後は 2 つの軸で、GC 分析を発展させていくことが検討されています。

1 つの軸は、GC 分析アプリの改善と強化です。まずニッポンハム グループ内の横展開を容易にするため、クライアント PC 上で動かしていたアプリを、Azure App Service で Web 化することが計画されています。そして回答速度をさらに向上させ、GC 分析アプリをシミュレーターとして商談に参加させていく、といったことも目指されています。

もう 1 つの軸は適用領域の拡大です。現在はコンビニ業界向けの商品開発や営業プロセスで活用されていますが、今後はスーパーや外食業界へも展開し、さらに商品開発以外の意思決定プロセスにも応用していくことが視野に入っています。

「今後は各戦略/計画立案、SNS 対策など、さまざまな用途で利用できると考えています。AI 活用で重要なのはデータですが、日本ハムには実に多様なデータがあります。これらをアドオンしながら、GC 分析のような効果的な生成 AI 活用を、バリューチェーン全体へと広げて行きたいと考えています」 (藤本 氏)。

二宮 恵三 氏, SHIFTEE部 技術マネージャ, 株式会社システムサポート

Smart Generative Chat は、Azure OpenAI Service などを利用して情報の安全性を確保しつつ、最新の AI テクノロジーを誰でも簡単に利用できる、豊富な機能を提供しています。具体的には、ガバナンスを強化できる管理機能、プロンプト入力なしに AI と対話できるシナリオ機能、社内データのベクターサーチを可能にする Embedding Chat 機能、データ分析や自動コード実行できるアシスタント API などを装備しています

二宮 恵三 氏, SHIFTEE部 技術マネージャ, 株式会社システムサポート

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